放射線物理学
原子・原子核の構造から、放射性壊変、光子・荷電粒子・中性子と物質の相互作用、X線の発生までを扱う。放射線技術のすべての基礎となる科目である。
原子・原子核の構造
- 原子核は陽子と中性子(あわせて核子)からなる。陽子数Zが原子番号、核子数Aが質量数。
- 核子は核力で結合しており、結合の強さは質量欠損に対応する。核子当たりの平均結合エネルギーは質量数60付近(鉄56など)で最大となる。
- 質量とエネルギーは E = mc^2 で等価。電子の静止エネルギーは 0.511 MeV。
- 陽子数・中性子数・質量数が等しく、原子核のエネルギー準位だけが異なる核種を核異性体という。
- 安定核の体積は質量数におよそ比例する(核密度はほぼ一定)。
国試ポイント: 結合エネルギー曲線の最大(鉄付近)、核異性体の定義、静止エネルギーの大小比較(α粒子 > 陽子 > 電子)が問われる。
放射性壊変
- α壊変: 原子核からα粒子(He原子核)が放出される。原子番号は2、質量数は4減る。α線のエネルギーは線スペクトル。
- β−壊変: 中性子が陽子に変わり、電子と反ニュートリノが放出される。原子番号は1増える。β線のエネルギーは連続スペクトル。
- β+壊変: 陽子が中性子に変わり、陽電子とニュートリノが放出される。原子番号は1減る。
- 軌道電子捕獲(EC): 原子核が軌道電子を捕獲する。ニュートリノを放出し、空いた軌道の穴を埋める過程で特性X線やオージェ電子が出る。
- γ壊変(核異性体転移): 励起状態の原子核がγ線を放出して低い準位に移る。原子番号・質量数は変化しない。γ線の代わりにエネルギーを軌道電子に直接与えて放出する過程が内部転換で、内部転換電子は線スペクトルを示す。
- 壊変則: N = N0 e^(−λt)。半減期は原子数(放射能)が半分になる時間で、T = ln2 / λ。放射能は A = λN。
国試ポイント: 「ニュートリノを放出する壊変(β+とEC)」「線スペクトルを示すもの(α線・γ線・内部転換電子・オージェ電子)」「1/10になる時間からの半減期計算」が定番。
放射線の種類と光子
- 直接電離放射線 = 荷電粒子線(α線、β線、電子線、陽子線、δ線など)。間接電離放射線 = 非荷電の放射線(X線、γ線、中性子線)で、二次的に発生した荷電粒子が電離を担う。
- 光子は静止質量と電荷を持たないが、運動量 p = E/c を持つ。真空中の速度は一定(光速c)。
- 光子のエネルギーは E = hν(プランク定数×振動数)。波長が短いほどエネルギーは大きく、c = λν が成り立つ。
国試ポイント: 直接/間接電離放射線の分類と、光子の性質(質量なし・電荷なし・運動量あり)は毎年のように問われる。
光子と物質の相互作用・減弱
- 光電効果: 光子が軌道電子にエネルギーをすべて与えて消滅し、光電子が放出される。光電子のエネルギーは hν −(結合エネルギー)。空席を埋める際に特性X線またはオージェ電子が放出される。低エネルギー・高原子番号で優勢。
- コンプトン散乱: 光子が電子と衝突してエネルギーの一部を与え、散乱光子の波長は入射光子より長く(エネルギーは低く)なる。散乱角が大きいほど散乱光子のエネルギーは低い。診断領域の水・軟部組織では主要な相互作用。
- 電子対生成: 光子が原子核の電場中で電子と陽電子の対に変わる。しきいエネルギーは 1.022 MeV(電子静止エネルギーの2倍)。高エネルギー・高原子番号で優勢。
- 減弱: 細いビームでは I = I0 e^(−μx)。μは線減弱係数、μ/ρ が質量減弱係数。半価層は HVL = ln2 / μ。質量減弱係数のグラフには、K殻電子の結合エネルギーで光電効果が急増するK吸収端が現れる(物質の同定に使われる)。
国試ポイント: 三大相互作用の優勢領域(エネルギーと原子番号の関係)、コンプトン散乱後の波長の伸び、1.022 MeVのしきい値、μと密度・原子数からの減弱計算が頻出。
三大相互作用の特徴を対比すると次のようになる。
| 相互作用 | エネルギー依存(優勢な領域) | 原子番号 Z 依存 | しきいエネルギー | 主な生成物 |
|---|---|---|---|---|
| 光電効果 | 低エネルギーで優勢 | 強く依存(およそ Z⁴〜Z⁵) | なし | 光電子・特性X線/オージェ電子 |
| コンプトン散乱 | 中間エネルギーで優勢 | ほぼ依存しない(電子数∝Z) | なし | 反跳電子・散乱光子 |
| 電子対生成 | 高エネルギーで優勢 | 強く依存(およそ Z²) | 1.022 MeV | 電子・陽電子(消滅放射線) |
単一エネルギー(単色)の光子を細いビームで物質に入射させると、透過強度 I は厚さ x に対して I = I₀ e^(−μx) で減少する。縦軸を対数にとると直線になり、強度が半分になる厚さが半価層 HVL = ln2 / μ である。厚さが 1 HVL 増えるごとに強度は 1/2 になる。
荷電粒子と物質の相互作用・阻止能
- 荷電粒子は物質中で電離・励起によりエネルギーを失う。単位長さ当たりの損失が阻止能で、電離・励起による衝突阻止能と、制動放射による放射阻止能に分けられる。
- 質量衝突阻止能(S/ρ)は、粒子の電荷の2乗に比例し、速度(エネルギー)が小さいほど大きい(エネルギーにほぼ反比例)。線衝突阻止能は物質の密度に比例する。
- 重荷電粒子は飛程終端部で比電離が急激に増大し、ブラッグピークを形成する。飛程がほぼ一定で直進性が高い。
- 電子は質量が小さいため経路が曲がりやすく、飛程には統計的なゆらぎがある。放射阻止能はエネルギーと物質の原子番号が大きいほど衝突阻止能に対して大きくなる。
- LET(線エネルギー付与)は飛跡に沿って局所的に付与されるエネルギーで、カットオフエネルギーを無限大にとると線衝突阻止能に一致する。
国試ポイント: 「質量衝突阻止能は電荷の2乗に比例・エネルギーに反比例」を使った粒子間の大小比較(同エネルギーならα線は陽子線の約4倍など)が繰り返し問われる。
X線の発生
- 制動X線: 高速電子が原子核の電場で減速され、失ったエネルギーが光子として放出される。エネルギーは連続スペクトルで、最大エネルギーは管電圧に対応する(最短波長は管電圧に反比例)。
- 制動X線の全強度は、管電流に比例し、ターゲット(陽極)物質の原子番号に比例し、管電圧の2乗に比例する。
- 特性X線: 内殻の空席に外殻電子が遷移する際に放出され、エネルギーは元素固有の線スペクトル。K殻への遷移によるものがK系列(Kα線など)で、そのエネルギーは原子番号が大きい元素ほど大きい(タングステン > モリブデン)。
- フィルタを付加すると低エネルギー成分が優先的に吸収され、スペクトルは硬くなる(実効エネルギーが上がる)。
国試ポイント: スペクトル図の読み取り(連続成分・特性X線・最大エネルギー・フィルタの効果)と、全強度の「管電圧の2乗・原子番号・管電流に比例」が最頻出。
中性子と物質の相互作用
- 中性子は電荷を持たず、原子核との相互作用(弾性散乱・非弾性散乱・捕獲反応など)でエネルギーを失う。
- 中性子の静止質量は陽子と電子の質量の和よりも大きい。
- 熱中性子の最頻の運動エネルギーは約 0.025 eV。
- 弾性散乱では質量の近い軽い核(水素)ほど効率よく減速される。捕獲反応の代表は (n, γ)。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では (n, α) 反応を利用する。
- 速中性子の束は物質の厚さとともに指数関数的に減弱する。10 MV以上のX線を発生する加速器では光核反応により中性子が生じる。
国試ポイント: 熱中性子のエネルギー(約0.025 eV)、(n, γ)・(n, α)・(n, p)反応での原子番号・質量数の変化が問われる。
頻出ポイント
- 半減期 T = ln2 / λ、減弱 I = I0 e^(−μx)、半価層 HVL = ln2 / μ。指数計算(1/10になる時間など)に使えること。
- ニュートリノ放出はβ+壊変と軌道電子捕獲。β−壊変では反ニュートリノ。
- 線スペクトル: α線・γ線・特性X線・内部転換電子・オージェ電子。連続スペクトル: β線・制動X線。
- 電子対生成のしきいエネルギーは 1.022 MeV。コンプトン散乱では散乱光子の波長が必ず長くなる。
- 質量衝突阻止能は電荷の2乗に比例し、エネルギーに反比例。重荷電粒子は飛程終端でブラッグピーク。
- 制動X線の全強度は管電圧の2乗・陽極の原子番号・管電流に比例。
- 直接電離放射線 = 荷電粒子線、間接電離放射線 = X線・γ線・中性子線。
- 熱中性子の最頻エネルギーは約 0.025 eV。電子の静止エネルギーは 0.511 MeV。
国試での出題(年度別)
この科目はデータのある年度で計 81 問。番号をタップで問題へ。解いた記録は緑/赤の枠で残り、右上の青点は解説ありです。