医用工学
医用工学は、電気・電子回路、半導体、デジタル技術、計測、そして医療機器の安全管理を扱う分野である。診療放射線技師国家試験では、オームの法則やRLC回路の計算、半導体・オペアンプ・論理回路の性質、機器分類や安全設計の考え方が繰り返し問われる。基本法則を数式とともに理解し、計算問題を確実に処理できることが得点の鍵となる。
電荷・電界と静電容量
電荷Qがつくる空間の性質を表すのが電界E(電気力線)である。電気力線は正電荷から出て負電荷に入り、その密度は電界の強さを表す。電気力線の接線方向が電界の向きと一致し、導体表面には垂直に出入りする。ガウスの法則により、電荷Qから出る電気力線の総数はQ/ε(真空ならQ/ε0)本である。
電位差は単位電荷あたりの仕事量として定義され、V=W/Qで表される(単位はV=J/C)。平等電界中では電位差は距離に比例し、V=E・dとなる。点電荷による電界強度は距離の2乗に反比例する。
コンデンサ(キャパシタ)は電荷を蓄える素子で、電荷は電位差に比例しQ=CVで表される。静電容量Cの単位はファラド(F)で、C=Q/VよりA・s・V^-1に等しい。平行板コンデンサの容量はC=ε・A/d(Aは極板面積、dは極板間距離、εは誘電率)で与えられ、面積に比例し距離に反比例する。誘電体を挟むと比誘電率倍だけ容量が増える。
抵抗Rを通じてコンデンサCを直流電圧Vで充電すると、端子電圧はv(t)=V(1−e^(−t/RC))に従って上昇する。積RCを時定数τといい、時間τを経過した時点で最終値Vの約63.2%に達する。τが大きいほど充電はゆるやかになる。
国試ポイント: 電気力線の「向き(接線方向)」が電界方向であって垂直方向ではない、という引っかけが頻出。C=εA/dの比例関係(Aに比例・dに反比例)を式ごと覚える。RC回路の時定数τ=RCでは約63%到達を押さえる。
電流・抵抗と直流回路
オームの法則V=IRが基本である。抵抗の直列接続では合成抵抗は各抵抗の和、並列接続では逆数の和の逆数となる。直並列回路では、まず並列部分をまとめてから直列計算し、全電流を求める。消費電力はP=VI=I^2R=V^2/Rで表される。
抵抗線を電源につないだときの消費電力はP=V^2/Rで決まるため、同じ抵抗線でも電圧を2倍にすると電力は4倍になる。電力量はエネルギーであり、電力×時間(kW・h)で計算する。
電圧計の測定範囲を広げるには、内部抵抗Rvに直列に倍率器Rmを入れる。測定範囲をn倍に拡大するときRm=(n-1)Rvとなる。ブリッジ回路は、検流計の振れが0(平衡)になったとき相対する辺の抵抗の積が等しいという条件から未知抵抗を求める。
国試ポイント: 直並列回路は「並列を先にまとめる」手順を徹底する。倍率器はRm=(n-1)Rv、P=V^2/Rの2乗依存(電圧2倍で電力4倍)は計算問題の定番。
交流回路とRLC・共振
正弦波交流では、実効値は最大値の1/√2、平均値(半周期)は最大値の2/πである。したがって実効値と平均値の比はπ:2√2となる。
コイル(インダクタL)の誘導リアクタンスはXL=2πfL、コンデンサ(容量C)の容量リアクタンスはXC=1/(2πfC)である。誘導リアクタンスは周波数に比例し、容量リアクタンスは周波数に反比例する。RLC直列回路のインピーダンスはZ=√(R^2+(XL-XC)^2)で求め、抵抗の電圧や電流はI=V/Zから計算する。
コイルとコンデンサが共振するとXL=XCとなり、共振周波数はf=1/(2π√(LC))で表される。共振時にはリアクタンス成分が打ち消し合い、直列回路ではインピーダンスが最小になる。
交流電力ではP=VIcosφ(cosφは力率、φは電圧と電流の位相差)が消費電力を表す。抵抗は電圧と電流が同相、コイルは電流が電圧より90度遅れ、コンデンサは電流が90度進む。
国試ポイント: XL=2πfL、XC=1/(2πfC)、f=1/(2π√(LC))の3式は必修。RLC直列はZ=√(R^2+(XL-XC)^2)で、まずインピーダンスを出してから電流・電圧を求める。
電磁誘導と変圧器
コイルを貫く磁束が変化すると誘導起電力が生じる。ファラデーの法則よりV=-N・(dΦ/dt)で、巻数Nと磁束の時間変化率に比例する。自己インダクタンスはN・(dΦ/dt)=L・(dI/dt)の関係から求められる。
変圧器は電磁誘導を利用して電圧を変換する装置で、一次・二次の電圧比は巻数比に等しい。損失には鉄損と銅損がある。鉄損はヒステリシス損と渦電流損からなり鉄心で生じる無負荷損である。銅損は巻線抵抗による損失で負荷電流の2乗に比例する。電圧一定で周波数が低下すると磁束密度が増加して鉄損(特にヒステリシス損)は増加し、負荷電流一定なら銅損は変わらない。変圧器の絶縁油には、対流冷却のため粘度が低く、引火点・比熱・絶縁耐力が大きく化学的に安定な性状が求められる。
国試ポイント: 鉄損=無負荷損(磁束密度に依存)、銅損=負荷電流の2乗に比例、という区別が問われる。絶縁油は「粘度が低い」が正しい(高いは誤り)。
半導体・ダイオード・トランジスタ
真性半導体では絶対零度で価電子帯が満たされ伝導帯は空帯、禁制帯にキャリアはなく、フェルミ準位は禁制帯のほぼ中央にある。温度が上がると電子が伝導帯へ励起され、自由電子と正孔が同数生じる。
不純物を加えた不純物半導体では、5価元素(ヒ素・リンなど、ドナー)を添加するとn形、3価元素(アクセプタ)を添加するとp形になる。n形ではフェルミ準位が伝導帯寄りになる。pn接合では拡散により空乏層と電位障壁(拡散電位)が形成され、これがダイオードの整流作用の基礎となる。ダイオードの整流回路では、正弦波交流入力のうち半波整流は正の半周期だけを通し負の半周期を0にするのに対し、全波整流は負の半周期を折り返して常に正の出力とする。
導電率σ、キャリア濃度n、電荷量e、移動度μの間にはσ=neμの関係がある。IGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)はMOSFETのゲート構造とバイポーラトランジスタの低オン抵抗を組み合わせた3端子素子で、ゲート電圧でコレクタ電流を制御でき、スイッチング速度はバイポーラより速くMOSFETより遅い。
国試ポイント: 5価→n形、3価→p形(ヒ素はドナーでn形)。σ=neμの計算、IGBTは「バイポーラより速い」が正しい点に注意。
オペアンプと増幅回路
演算増幅器(オペアンプ)は反転・非反転入力を持ち、負帰還をかけて増幅回路を構成する。反転増幅回路の電圧利得は-Rf/Rin(Rfは帰還抵抗、Rinは入力抵抗)で、出力は入力と逆位相になる。加算増幅回路では各入力電圧に対応した項の和が出力される。
増幅度をデシベルで表すと、電圧利得G[dB]=20log10(Vo/Vi)である。利得20dBは電圧比10倍、40dBは100倍に対応する。増幅器を直列接続(多段)すると、全体の利得(dB)は各段の利得(dB)の和になる。
国試ポイント: G[dB]=20log10(電圧比)。20dB=10倍、40dB=100倍は暗記。反転増幅は利得-Rf/Rin、多段接続はdBを足し算で処理する。
論理回路とデジタル
基本論理演算はAND(論理積)、OR(論理和)、NOT(否定)で、これらを組み合わせてNAND・NOR・XOR(排他的論理和)などを構成する。XORは2入力が異なるとき1、同じとき0を出力する。NANDはAND出力を反転したもので、2入力がともに1のときのみ0となる。真理値表から論理演算の種類を判定する問題が頻出する。
2入力A・Bに対する各ゲートの出力をまとめると次のようになる(NOTは入力Aのみを反転)。NANDはANDの反転、NORはORの反転であり、出力パターンを対比して覚えるとよい。
| A | B | AND | OR | NOT A | NAND | NOR | XOR |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
| 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 |
| 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 |
| 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
数の表現では、2進数・10進数・16進数の相互変換が問われる。16進数の1桁は2進数4桁に対応し、例えば16進数の2Aは10進数で42、2進数で0010 1010となる。2進数どうしの乗算やブール代数による論理式の簡単化も出題される。
AD変換器はアナログ電圧をデジタル値へ変換する回路で、逐次比較型やカウンタ型などがある。
国試ポイント: XOR=入力が異なるとき1。真理値表から演算名を答える問題は、AND/OR/NAND/NOR/XORの出力パターンを対比して覚える。16進1桁=2進4桁の対応で変換を素早く行う。
計測とコンピュータ・機器安全
コンピュータの5大機能は演算・記憶・制御・入力・出力で、CPUは演算・制御、SSDやRAMは記憶、CRTやプリンタは出力、キーボードは入力を担う。
医療機器の安全設計では、フールプルーフは誤った操作自体をできなくして誤操作を事前に防止する仕組み、フェイルセーフは故障や誤操作が起きても安全側に動作する仕組みを指す。両者の違いを問う設問が定番である。医薬品医療機器等法(薬機法)では医療機器をリスクに応じて分類し、設置に専門管理を要する機器を設置管理医療機器(例:移動型X線装置)、保守点検に専門知識を要する機器を特定保守管理医療機器(例:X線CT装置)に指定している。
国試ポイント: フールプルーフ=事前防止(誤操作をさせない)、フェイルセーフ=故障時に安全側、の対比を必ず区別する。設置管理/特定保守管理医療機器の代表例も押さえる。
頻出ポイント
- オームの法則V=IR、消費電力P=VI=I^2R=V^2/R(電圧2倍で電力4倍)。
- 実効値=最大値の1/√2、平均値=最大値の2/π。
- XL=2πfL(周波数に比例)、XC=1/(2πfC)(周波数に反比例)、共振f=1/(2π√(LC))。
- RLC直列のインピーダンスZ=√(R^2+(XL-XC)^2)。
- 変圧器:鉄損=無負荷損、銅損=負荷電流の2乗に比例。絶縁油は粘度が低い。
- 半導体:5価元素→n形、3価元素→p形。導電率σ=neμ。IGBTはバイポーラより高速。
- オペアンプ:G[dB]=20log10(電圧比)、20dB=10倍、40dB=100倍。
- 論理:XORは入力が異なるとき1。16進1桁=2進4桁。
- 安全:フールプルーフ(事前防止)とフェイルセーフ(故障時に安全側)の区別。
国試での出題(年度別)
この科目はデータのある年度で計 64 問。番号をタップで問題へ。解いた記録は緑/赤の枠で残り、右上の青点は解説ありです。