放射化学
放射化学は、放射性核種の性質・壊変・核反応から、標識化合物の合成、放射性核種の分離・精製、純度検定、放射能を利用した分析法までを扱う。核医学で用いる核種がどのように作られ、化学的に取り扱われるかを理解することが中心となる。
元素と核種の基礎
陽子数が同じで中性子数が異なる核種を互いに同位体という。壊変せず安定なものを安定同位体、壊変するものを放射性同位体(RI)と呼ぶ。周期表で同じ縦の列に属する元素は化学的性質が似ており、同族元素という(例: フッ素 F と塩素 Cl は同じハロゲン族)。
国試ポイント: 元素記号と元素名の組合せ(例: Lu=ルテチウム、La=ランタン)、および同族元素(同じ族の元素)を問う出題がある。
放射性壊変と核反応
主な壊変形式には α壊変、β⁻壊変、β⁺壊変(陽電子放出)、軌道電子捕獲(EC)などがある。軌道電子捕獲では原子番号は1減るが質量数は変化しない。壊変の経路を図示したものが壊変図(壊変図式)で、複数の経路をとる分岐壊変も表現できる。
| 壊変形式 | 原子番号 Z | 質量数 A | 主な放出 |
|---|---|---|---|
| α壊変 | −2 | −4 | α粒子(He 原子核) |
| β⁻壊変 | +1 | 不変 | 電子・反ニュートリノ |
| β⁺壊変(陽電子放出) | −1 | 不変 | 陽電子・ニュートリノ |
| 軌道電子捕獲(EC) | −1 | 不変 | 特性X線・Auger 電子 |
核反応は原子核に粒子を入射させて別の核種を生成する現象で、反応に必要な最小の入射エネルギーをしきい値という。
半減期の概念も重要である。
- 物理的半減期: 放射壊変だけで放射能が半分になる時間。核種固有。
- 生物学的半減期: 排泄など生物学的過程で体内量が半分になる時間。
- 有効半減期: 物理的・生物学的半減期を合わせたもので、いずれよりも短くなる。内部被ばく防護の指標として用いられる。
陽電子放出核種では、放出される陽電子の最大エネルギーが大きいほど物質中での最大飛程が長くなる。飛程は PET の空間分解能に影響する。
国試ポイント: 「ECでは質量数不変」「有効半減期は両半減期より短く内部被ばくの指標」「陽電子の最大エネルギーの大小と飛程の順序」は頻出。
放射平衡とジェネレータ
親核種が壊変して娘核種を生じ、親の半減期が娘より長いとき、両者の放射能比が一定になる。これを放射平衡という。
- 過渡平衡: 親の半減期が娘より長いが極端には長くない場合。娘の放射能は親をやや上回りながら親の半減期に従って減衰する。
- 永続平衡: 親の半減期が娘に比べて非常に長い場合に成立し、娘の放射能は親にほぼ等しくなる。
この親娘関係を利用し、施設で娘核種を繰り返し取り出せる装置がジェネレータである。代表例が ⁹⁹Mo–⁹⁹ᵐTc ジェネレータで、親核種 ⁹⁹Mo をアルミナ(酸化アルミニウム)カラムに吸着させ、生成した娘核種 ⁹⁹ᵐTc を生理食塩水で溶出(ミルキング)して取り出す。両者は過渡平衡の関係にある。親核種に ⁶⁸Ge を用いる ⁶⁸Ge–⁶⁸Ga ジェネレータもある。
国試ポイント: Mo–Tc ジェネレータでは「親 ⁹⁹Mo はアルミナカラムに保持」「娘 ⁹⁹ᵐTc を生理食塩水でミルキング」「両者は過渡平衡」を区別。永続平衡が成立する半減期の組合せ(親が娘より桁違いに長い)も出る。
標識化合物とその合成法
放射性核種を化合物に組み込んだものが標識化合物で、放射性医薬品の基本となる。ごく微量を目印として体内動態を追う放射性トレーサ法では、投与量が微量であるため薬理効果を示さないことが前提であり、放射線測定の高感度性を利用する。
主な標識・合成法:
- 放射性ヨウ素標識(蛋白質): 直接標識法はチロシン残基を酸化的にヨウ素化する(クロラミンT法、ヨードゲン法、ラクトパーオキシダーゼ法)。間接標識法はあらかじめヨウ素化した試薬をアミノ基に結合させる Bolton-Hunter(ボルトン・ハンター)法。
- ³H(トリチウム)標識: トリチウムガス中に化合物を置き水素と交換させる Wilzbach(ウィルツバッハ)法。
- ¹⁴C 標識: 微生物などの代謝を利用する生合成法と、有機合成による化学合成法がある。
国試ポイント: 「直接法=チロシン直接ヨウ素化」「間接法=Bolton-Hunter」の対比が定番。
放射化学的純度と標識化合物の分解
標識化合物の品質管理では、複数の「純度」を区別する。
- 放射性核種純度: 全放射能に占める目的核種の割合。γ線スペクトロメトリで核種ごとのγ線エネルギーを見て検定する。
- 放射化学的純度: 目的の化学形にある放射能の割合。薄層・ペーパークロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、電気泳動法などで化学形ごとに分離して求める。
標識化合物は保存中に放射線分解を起こし、放射化学的不純物を生じる。α線は β線よりも放射線分解を起こしやすく、少量ずつ小分けして保存すると分解を低減できる。放射性壊変そのものによる分解は化学的手段では防げない。
国試ポイント: 放射性核種純度と放射化学的純度、およびその検定法の対応を混同しない。
放射性核種の分離法
放射性核種を化学形や元素ごとに分離・精製する方法が問われる。
- 共沈法: 目的核種を担体とともに沈殿させて分離する。溶解度積の法則を利用する。逆に目的核種を沈殿させたくないときは保持担体を加えて沈殿を防ぐ。
- 溶媒抽出法: 水相と有機相への分配の違いを利用する。分配比 D(有機相中の全濃度/水相中の全濃度)と両相の体積から抽出率を求め、D が大きいほど抽出率が高い。
- クロマトグラフィ: 固定相と移動相への親和性の差で分離する。ペーパー・薄層クロマトグラフィ(TLC)はカラムを用いず、移動距離の比である Rf 値を比較する。ガス・カラムクロマトグラフィはカラムに固定相を充塡する。
- 昇華・蒸留法: 気体になりやすい元素や化合物の分離に適する。
- ラジオコロイド法: 微量の放射性核種がコロイド状粒子として振る舞う性質を利用する。
- Szilard-Chalmers(ジラード・チャルマーズ)法: 核反応に伴う反跳効果を利用して、生成核種を化学結合から切り離して分離する。
国試ポイント: 「共沈=溶解度積」「保持担体=沈殿を防ぐ」「Szilard-Chalmers=反跳効果」「ペーパー/薄層=カラム不要・Rf 値」を組合せで問う。溶媒抽出は分配比と体積から抽出率を計算させる。
放射能を利用した分析法
放射能の高感度性を利用した分析法も出題される。
- 放射化分析(中性子放射化分析): 試料に原子炉などで中性子を照射して核種を作り、放出γ線から元素を定量する。検出感度が高く多元素同時分析が可能。
- PIXE 法: サイクロトロンなどの加速器による荷電粒子線を試料に当て、放出される特性X線のスペクトルを解析して元素分析する。
- 同位体希釈分析: 既知量の標識化合物を加え、希釈による比放射能の変化から目的物質量を求める。
- 放射分析: 放射能測定を用いた定量法。放射滴定法は間接法に分類される。
- オートラジオグラフィ: 試料中の放射能分布を画像化する。イメージングプレート法は光刺激ルミネセンスを利用し写真法より高感度で、試料とプレートを密着させると解像度が向上する。
国試ポイント: 「原子炉(中性子)=放射化分析」「加速器=PIXE・特性X線」の対比が頻出。
頻出ポイント
- ⁹⁹Mo–⁹⁹ᵐTc ジェネレータ: 親 ⁹⁹Mo はアルミナカラムに吸着、娘 ⁹⁹ᵐTc を生理食塩水でミルキング、両者は過渡平衡。
- 軌道電子捕獲では質量数は変化しない。有効半減期は両半減期より短く、内部被ばく防護の指標。
- ヨウ素標識は直接法(チロシンを直接ヨウ素化)と間接法(Bolton-Hunter)を区別。³H は Wilzbach 法、¹⁴C は生合成法・化学合成法。
- 放射性核種純度=γ線スペクトロメトリ、放射化学的純度=クロマトグラフィ・電気泳動・HPLC。
- 分離法: 共沈=溶解度積、保持担体=沈殿防止、昇華・蒸留=揮発性成分、Szilard-Chalmers=反跳効果、ペーパー/薄層=カラム不要・Rf 値。
- 放射化分析は原子炉(中性子)で高感度・多元素同時分析、PIXE は加速器の荷電粒子線と特性X線を利用。
- オートラジオグラフィのイメージングプレート法は光刺激ルミネセンス利用で写真法より高感度、密着で解像度向上。
国試での出題(年度別)
この科目はデータのある年度で計 53 問。番号をタップで問題へ。解いた記録は緑/赤の枠で残り、右上の青点は解説ありです。